
1.はじめに
お正月は、新しい年の幸運や健康を願う大切な節目です。

「お正月飾り」には、古来より縁起の良いとされる植物たちが用いられてきました。
それらは、花が次から次へと咲くもの、赤い実をつけるもの、名前に縁起をかけたもの、春に葉が新しいものへと変わるものなど、様々な意味合いが込められています。
今回は、これらの日本の伝統的な植物が持つ象徴的な意味や由来に触れながら、お正月飾りにぴったりの植物を15種類紹介します。
(※本記事はほとんどが日本の在来植物ですが、古くから日本人の暮らしと深く結びついてきた中国原産植物も一緒に紹介しています。)
2.お正月に使う日本の植物
①お正月飾りの代表である松竹梅
お正月や祝い事に飾られる最上級の吉祥が松竹梅といわれます。
この組み合わせは中国が発祥とし、「歳寒三友(さいかんさいゆう)」とも呼ばれます。
これは、松竹梅が厳しい寒さの中でも萎れることなく、耐え忍ぶ志の高さを表しています。
マツ(松)
【マツ科 マツ属 アカマツ、クロマツ、ゴヨウマツなど】

・マツは昔から魔を払い、幸せを「待つ」木といわれる
・冬の厳しい寒さの中でもみずみずしい緑の葉を保つことから「百木の長」と敬われる
・年中葉を保つ常緑樹であることから永遠と結びついて「長寿」の意味合いがある
・正月は門松やしめ縄飾りに用いられる
タケ(竹)
【イネ科 マダケ属 マダケなど】

・成長が早く、広く根を張ることから「子孫繁栄」の意味合いをもつ
・雪の重みで葉を地面につけることもあるが、折れることなく雪が揺れ落ちるとまっすぐに跳ね上げて立つ強さを持つ
・正月は門松として主に使われる
ウメ(梅)
【バラ科 アンズ属 中国原産】

・葉の落ちた寒々しい枝から香りある花を開いて春の到来を告げる
・年の初めに咲くことから「花の兄」ともいわれる(「花の弟」は菊)
・寒い冬に花を咲かせるようすから生命力の強さを感じさせ、「長寿」や「子孫繁栄」の意味合いがある
・正月は花材として用いられる
②お金にまつわる木
植物の中には江戸時代のお金の名前が付いているものがいくつかあります。
その全てが年中葉の付いている常緑樹であり、赤い実が実る植物です。
赤い実はお金に見立てられ、庭木の赤い実がなると「お金が成る」といって縁起が良いものでした。
アリドオシ=別名:一両(イチリョウ)
【アカネ科 アリドオシ属 学名:Damnacanthus indicus】

・鋭いトゲがあるため庭木として使われることは滅多にないが、他の木の「根締め」に使われることがある
・冬に赤い実をつけるのでお金にまつわる縁起木の最も下の位の一両に位置付けられている
・他の「千両」、「万両」の木とともに「千両万両有り通し」という語呂合わせで、「お金は年中いつも有る」という意味合いと共に正月に植えられることがある
ヤブコウジ=別名:十両(ジュウリョウ)

【サクラソウ科 ヤブコウジ属 学名:Ardisia japonica】
・ヤマタチバナの別名もあり、後述の百両(ヒャクリョウ)であるカラタチバナに対して山(藪)に自生することでこの名で呼ばれるという
・雪霜でも萎れず、細く小さいものだが赤い実をつけることから祝いや正月に用いられたことが江戸時代の「貞丈雑記」に残る
・現在は鉢植えにして正月飾りによく用いる
カラタチバナ=別名:百両(ヒャクリョウ)
【サクラソウ科 ヤブコウジ属 学名:Ardisia crispa】

・中国の古い植物名に「百両金」というものがあり、江戸時代に日本の園芸家がこれにカラタチバナをあてたという
・鉢植えにして正月飾りに用いる
センリョウ(千両)
【センリョウ科 センリョウ属 学名:Sarcandra glabra】

・冬季でもみずみずしい葉を保ち、枝の先に赤い実を沢山実らせているため、正月にはなくてはならない花材である
・「百両」であるカラタチバナよりも実が大きいことから「千両」という名が付いたと考えられている
マンリョウ(万両)
【サクラソウ科 ヤブコウジ属 学名:Ardisia crenata】

・千両(センリョウ)より実が大きいことから万両という名が付いたと考えられている
・庭木や鉢物として栽培され、正月に縁起物として飾られる
クロガネモチ
【モチノキ科 モチノキ属 学名:Ilex rotunda】

・「金持ち」が名に含まれるため、「長者」になれる縁起木として知られる
・前述同様、赤い実が沢山実る様子を縁起が良いとしている
③その他
ユズリハ
【ユズリハ科 ユズリハ属 ユズリハ、ヒメユズリハなど 】

・その名の通り、春に新しい葉が出てから古い葉が落ちる木を、子供が後を継いだのちに親が去るという「子孫繁栄」の意味合いに結び付けて正月飾りに用いられる
・年中葉がある常緑樹のため、寒い冬でも葉がみずみずしい姿をしている
・葉や実には毒があるため扱いには注意が必要
ナンテン
【メギ科 ナンテン属 Nandina domestica 】

・「難を転じて福となす」に通じることから縁起木とされてきた
・正月の掛け軸にスイセンとナンテンを描いた「天仙図」が縁起物として好まれた
・新年の生け花や門松といった正月飾りに用いられる
・毒があるため扱いには注意が必要
ウラジロ
【ウラジロ科 ウラジロ属 Diplopterygium glaucum 】

・葉の裏が白いことから、潔白な心や白髪になるまで長寿でいられる意味をもつ
・葉が対になって生えることが夫婦円満の象徴
・群がって生育するため、先祖の霊魂が宿っていると考えられた
・次々と新しい葉が伸びることや、シダ植物である「歯朶(しだ)」の呼び名を年齢になぞらえ、子孫繁栄や長寿の象徴という意味がある
・裏白を飾る時は、縁起の良い葉の白い裏側が表にくるように飾る
ヒカゲノカズラ
【ヒカゲノカズラ科 ヒカゲノカズラ属 Lycopodium clavatum 】

・関西では平安時代から伝わる「掛蓬莱」という正月飾りがあり、ヒカゲノカズラを始めとした植物を使って蓬莱山に登る龍を表現し、床の間に飾る風習がある(蓬莱山:中国の不老不死の地とされる霊山)
・年中葉を緑に保つ常緑の植物であり、茎を切っても青々としていることから生命力の強さを表す
フクジュソウ(福寿草)
【キンポウゲ科 フクジュソウ属 Adonis ramosa】

・福寿草という名の通り、正月に飾られる縁起の良い植物
・花は黄金色に輝き、雪が残る時期に真っ先にその花を咲かせて春を感じさせる
・毒があるため扱いには注意が必要
オモト(万年青)
【キジカクシ科 オモト属 Rohdea Japonica】

・漢名で「万年青」と書き、年中葉が緑の常緑性であることが、生命力の強さを表し、長寿や子孫繁栄の意味合いがある
・鉢物として栽培され、正月に縁起物として飾られる
・毒があるため扱いには注意が必要
3.おわりに
いかがでしたか?
お正月飾りに使われる日本の植物には、長寿、繁栄、厄除けなど、先人たちの思いが込められています。
こうした植物たちは、単なる装飾ではなく、日本の文化や自然への感謝を映し出す象徴でもあります。
それぞれが持つ意味を知ることで、新年を迎える心構えをより深めてくれるかもしれません。
今年のお正月は、飾りに込められた願いや歴史に思いを馳せながら、新しい年の幸せと豊かさを祈ってみてはいかがでしょうか。
ぜひ参考にしてみてください。
参考文献・HP
・茂木透・石井英美・崎尾均・吉山寛・太田和夫・勝山輝男・高橋秀男・城川四郎・中川重年(2000) 『山溪ハンディ図鑑3~5 樹に咲く花①~③』山と溪谷社
・縁起のよい樹と日本人 新装版 [ 有岡利幸 ]
・Yomeishu.生薬ものしり事典.2024/12/25