
1.はじめに
「春の妖精」と呼ばれるスプリング・エフェメラルをご存じですか?
春の短い期間だけ森や野原に姿を現し、あっという間に消えてしまう儚くも美しい花々。
この植物たちは雪解け後のわずかな時間、木々の葉が茂る前の光を浴びて咲き誇ります。
今回は、スプリングエフェメラルの特徴や代表的な花々、観察に最適な時期と場所などの観察ポイントをご紹介します。
2.春の妖精スプリング・エフェメラルとは?
スプリングエフェメラル(Spring Ephemerals)とは、「スプリング(Spring)」は「春」、「エフェメラル(Ephemeral)」は「儚い」「短命な」という意味があります。
そして、春の限られた時間だけ活動する植物の特徴を表してスプリングエフェメラル=「春の妖精」と呼ばれています。

スプリングエフェメラルは、雪解け直後から活動を開始し、木々が葉を茂らせる前に成長・開花・結実を終える植物です。
短期間で役目を果たした後は、地上部が枯れて地下の球根や根茎で休眠します。
この早春だけにギュッと詰め込まれた生活形は、小さく儚い植物たちの生存戦略でもあります。
春先はまだ木々の葉が展開しておらず、地表までたっぷりと光が届きます。
この限られた光を効率的に利用するため、他の植物よりも早く成長を開始します。
上部の木々の葉が展開した後では、光が十分に届かず、日陰に強い他の林床植物たちにも負けてしまうからです。

そのため、スプリングエフェメラルは、年中葉が付いた状態の常緑樹林ではなく、落葉広葉樹林に適応した植物たちです。
また、日本だけにとどまらず世界の落葉広葉樹林にも同様のスプリングエフェメラルが存在します(気になる方は検索してみてください)。

春先に活動する昆虫に花粉を運んでもらうため、色彩豊かで大きく目立つ花をつけていることも特徴です。
3.観察ポイント
先ほども述べたように、スプリングエフェメラルは、雪解け直後から活動を開始します。
成長過程が早いため、タイミングを逃すと春であってもすでに地上部がなくなっている場合や葉だけになっている場合があります。
このことも含め、以下のようなポイントを参考にしてください。
①観察時期
雪解け後、気温が上がり始めた直後がスプリングエフェメラルの活動期です。
地域によって異なりますが、一般的には2月~3月が適期です。地元の自然公園や保護区のHP、植物を観察しているプロのSNS情報などを事前にチェックするとよいです。
②観察に適した場所
落葉広葉樹の森や里山に多くのスプリングエフェメラルが見られます。
また、確実に見たい場合は地域の自然公園や保護区、春の植物観察会への参加をおすすめします。
③その他
花の形状や色、葉の形、群生している場所などをじっくり観察してみたり、ミツバチやアリ、チョウなどの昆虫が訪れている様子を観察したりすると、生態系のつながりが感じられるかもしれません。
ただし、スプリングエフェメラルは小さく儚いので、踏み荒らしには注意しましょう。
4.日本に自生するスプリングエフェメラルの代表植物10選
①カタクリ
【ユリ科 カタクリ属 学名:Erythronium japonicum】

②ショウジョウバカマ
【シュロソウ科 ショウジョウバカマ属 学名:Heloniopsis orientalis】

※他と異なり常緑性
③フクジュソウ
【キンポウゲ科 フクジュソウ属 学名:Adonis ramosa】

④セツブンソウ
【キンポウゲ科 セツブンソウ属 学名:Eranthis pinnatifida】

⑤イチリンソウ
【キンポウゲ科 イチリンソウ属 学名:Anemone nikoensis 】

⑥ニリンソウ
【キンポウゲ科 イチリンソウ属 学名:Anemone flaccida】

⑦キクザキイチゲ
【キンポウゲ科 イチリンソウ属 学名:Anemone pseudoaltaica】

⑧アズマイチゲ
【キンポウゲ科 イチリンソウ属 学名:Anemone raddeana】

⑨ムラサキケマン
【ケシ科 キケマン属 学名:Corydalis incisa】

⑩ヤマエンゴサク
【ケシ科 キケマン属 学名:Corydalis lineariloba】

5.おわりに
いかがでしたか?
スプリングエフェメラルの短くも美しいライフサイクルは、春だけに見られる季節の風物詩です。
その儚さを目の当たりにすると、自然の尊さや生命の力強さを改めて感じることができるかもしれません。
ぜひこの春は森や野原を訪れ、スプリングエフェメラルたちの輝きを楽しんでみてはいかがでしょうか。
ただし、観察時は自然への配慮を忘れずに。
ぜひ参考にしてみてください。
参考文献・HP
・平野隆久(2013) 『野に咲く花増補改訂新版』山と渓谷社